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異国の楽器で未だ見ぬ世界を:小栗久美子トルン・トリオ

2009年9月20日 0 コメント

異国の地、ベトナムに伝わる楽器、トルンを日本で演奏するひとりの女性がいます。演奏がはじまると、その小さな体からは想像ができぬほど、大きく、勇壮に音を奏でます。彼女が軸となって結成されるトリオは、ジャズの感触に覆われたアンサンブルを奏で、潤いのあるグルーヴを響かせます。その音は、想像してしまいがちな「伝統」とは違い、現代的であり、未来的ですらある。音楽を聴いていると、この人たちは、一体、どんなところを目指して楽隊の旅を続けているのか、気になってくる。彼らが音楽にのせ、運んでいる想いを、小栗久美子さん、岡山晃久さん、菊田茂伸さんの3人に聞いてみました。

訪ねた人:小栗久美子さん、岡山晃久さん、菊田茂伸さん
取材:鈴木 "Suzu" 隆文

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こんにちは。トルンという楽器、はじめて聞きましたが、とてもいい音が鳴るんですね。どのような楽器かについて、簡単にご説明いただけますか?

小栗:トルンというのは、もともとはタイグエン地方に伝わるベトナムの少数民族の楽器だったものです。簡単に言うと、木琴ならぬ竹琴ですね。

なぜ日本人の若い女性が中心となって、異国のめずらしい楽器で高いレベルの音楽を鳴らしているのか、とても気になります。一体どんなきっかけから、トルンに触れることになったのでしょうか?

小栗:ベトナムの代表的な楽器として紹介されているもののほとんどは、人口の約9割を占める キン族の文化なんです。でも、トルンという楽器はタイグエン地方の少数民族が生み出した楽器です。あるときに、それを知ることになって、不思議でたまらなくなったんです。ベトナムには50種を超える少数民族がいて、各地に色々な楽器が存在するのに、とりわけトルンが、キン族の文化に並んで全国的に知られることができたは何故なのか?その結論を導くために、私はトルンの改良研究史を追ったわけですね。

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凄い研究心ですねぇ。でも、そのある種の学術的好奇心が、いつしか自らがプレイヤーになって音楽を演奏する情熱に変わっているのがとても不思議です。

小栗:それには実は理由があり、私は幼い頃からマリンバを習ってきているんです。マリンバは木琴の一種ですから、竹琴であるトルンに興味が移るのは、私としては、とても自然なことだったんです。トルンとの出会いは、大学でベトナム語を専攻したことに始まります。教授の研究室に、お土産品のミニチュアトルンが置かれていて、それを目にしてから、ずっと気になっていたんです。ベトナムで初めて本物を見たとき、その形状、音色ともに、強い衝撃をうけて、完全に惚れこんでしまいました。

それは何か運命めいたものを感じずにはいられませんね。では、トルン自体はマリンバの演奏テクニックの流用で、独学で学ばれたわけですね。

小栗:いいえ。そうではなくて、ベトナムに1年間留学をし、ハノイ音楽院(現在、“ベトナム国家音楽学院”に改名)のマイ・ライ先生や、ホーチミン市在住のトルン改良研究第一人者であるドーロック先生について、勉強しました。マイ・ライ先生のご一家は、みんな音楽家で、家族でアンサンブルをしたりもするんですよ。旦那さまのドン・ヴァン・ミン氏は元チェリストで、現在は腕の確かな楽器職人。私のトルンは、その方につくってもらっているんです。

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ハノイ音楽院のマイ・ライ先生。

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トルンを習うためにベトナム留学をする度胸というのがスゴい。驚きました。ベトナムというと、衛生環境も悪かったり、ある種の逞しさが求められる国だと思うのですけど、そういうところを飛び越えて、ベトナムに人生をかけるというのは、とてもユニークですね。

小栗:ありがとうございます。東南アジア圏の国は、騙されたりするから嫌いという日本人もいますけど、私はベトナムという国が大好きなんです。ベトナムはひと言で言えば、とても人間的な国だと感じています。人と人が近い感じがしたからです。“他人”ということを意識する傾向にある日本に対して、人が隣にいればどこでも会話が始まるし、自然に手を貸し助け合う、そういう“知らない人”であることを意識していないような感覚があって、自然でとてもいいなあと思いました。

でも、どんなに好きでも、その国の特別な楽器に情熱を傾けるということは、なかなかできることではありませんよね。ところで、現在取り組まれているトルン・トリオでは、どんな経緯、どんな想いで活動をされているのですか?

小栗:トリオは、2008年9月にベトナム・フェスティバルを機に結成しました。私は、トルンを通じて、民族音楽というジャンルにこだわらない音楽づくりを模索しています。ベトナムの伝統音楽をやることも大切なのですが、それだけにとどまらず、自分自身が持っているリズム感や音感、感性を活かせるように、トルンを演奏していきたい。ベトナム人にとっては、外国人である私ならではの立場からトルンを新しいスタイルで鳴らしたら、どんな新しい世界が広がるだろう? そういう想いが根にあるんだろうと思います。そんな新しいトルンの世界を多くの人に聴いてもらうことで少しでも元気づけられるようなことができたら、それ以上に嬉しいことはないかもしれないですね。

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メンバーのおふたりはいかがでしょうか?

岡山:パーカッションを担当している岡山です。このトリオは他に類を見ない編成なので、参加できることをとても嬉しく思っています。このトリオは、文化交流的な面と独立した音楽を追求した面のふたつの側面があって、僕らにはどちらも大事なんですが、一番大事なのは、やっぱり自分にとって「気持ちいい」とか「かっこいい」とか、そういう感覚なのかなぁ、と思っています。

菊田:ベースの菊田です。自分は最終的にそこに置いてある楽器からではなく、演奏家・作り手から音楽が聴こえてくると思うので、このトリオを始めたとき「民族楽器だから」「希少な楽器だから」とか「トルンでこの曲を演奏するのは世界初!」という面に頼らないように、と思いました。何か狙って特別なことをしようとは思わず、ただ「良い」音楽を、と思っています。

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ライブを聴かせていただいて、ジャズっぽい要素に包まれる形で全体のアンサンブルがうまく調和しているように感じたんですけど、この編成は計算されたものなのでしょうか?また、3人の音を調和させるために、気をつけていることなどがあれば、教えてください。

菊田:計算とまでは言わないですが、自然の竹の素材の音を生かしたトルンとウッドベースの温かい音、おそらく調和するのでは?とパーカッションの岡山さんのアイデアで誘っていただきました。トルンは気温湿度によってかなりピッチが変化するので、フレットがないウッドベースは、トルンに合わせやすいのかもしれませんね。。ちなみに昨年の冬は、竹が縮こまったせいか音が低くなり、とても苦労しました。自分はアレンジャーも担当してるのですが、トルンの音階配置のモデルとにらめっこしながら作っています。鍵盤の並びが他に例を見ない配置なので、アレンジをする際は考る必要があるからです。

岡山:自分のパーカッションというパートにおいては、リズムを刻むというよりは、ワクワクドキドキな感じ、緊張感、ノリノリ感、楽しい感じ、寂しい感じ など、空気を作れるように意識して演奏しています。そういうものがうまくアンサンブルに影響しているのではないでしょうか。

小栗:私は、どちらかというとクラシックの畑出身なんです。だから、ジャズっぽいバンドというのは、私の中ではじめは冒険的な要素が強かったんだけど、最近、そういう空気をもっと自分のものにしたいなぁという想いが強くなってきていますね。

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こういうユニークな音の世界の追求が、より多くの人の耳に届くといいですね。最後に、今後のビジョンのようなものがあったら、教えてください。

小栗:トルンはベトナムの伝統文化の一としてすでに充分魅力的ですが、「ベトナムの楽器」という枠だけでなく、ひとつの「竹製の楽器」として視野を広げてみたときに、もっと出来ることがあると思っています。ですから、私はこのトリオで 伝統楽器の新天地の開拓をしていきたい。それから、個人的には、声楽家だった母のことをとても尊敬しています。母のまわりには、なぜかいつも人が集まってきて、母の歌を聴いて、みんな、元気になっていく。病気をして他界してしまいましたが、母がこれまで音楽を通じてしてきた活動を少しでも受け継いでいけたらいいなぁという想いがあります。

菊田:自分個人の演奏の信条として、カッコ良くも悪くも「生きる」というテーマでやっております。プレイヤーから発する音は、その人の生き様が影響していると思います。なので自分が出す音、紡ぐメロディは自分に正直にありたいです。その結果、誠実な音楽が生まれるのだと思っております。トルントリオは比較的、この自分の目標に近いことをやってると思います。メンバー2人も音楽に対してとても誠実で信頼してます。今後のトリオに関しては、さっき述べたように、このバンドは「民族楽器だから」「希少な楽器だから」とかそういった面に頼らず、単に音楽的にもすごいバンドにしたいと思ってます。もちろん、ベトナムの少数民族の文化を理解し、それを幅広い方々に紹介する。という役目もあると自覚しております。しかしそれだけに甘えてるのは、音楽の発信者としてのチャンスを逃すことにならないか?と考えてます。つまりはより多くの音楽好きが「おお!」と注目することをやっていきたいですね。

岡山:とにかく、自分たちに正直に演奏していくしかないと思います。自分が「良い」と思ったら、そこには自信と責任をもって取り組めるようなそんな姿勢と、自分ではない外からの意見を柔軟に取り組んでいける姿勢と、どちらもバランスよく持ちながら音楽に接していけば、自然と自分の音が発信されるのかな、と考えています。あとはそれを続けていける強さを持っていきたいですね。

小栗:10月には、大きなライブを控えているので、そこでは、私たちだけにしか出せない空気を出して、みなさんを、新しい音楽の世界へお連れできればいいなぁと思っています。

どうもありがとうございました!若いみなさんが、新しい世界を探求している姿を見ていると、何だか元気づけられます。新しい音の世界、楽しみですね。

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Information!!

トルン&マリンバ・トリオライブ

@横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール

2009年10月4日(日)
17時30分オープン
18時00分開演
出演:小栗久美子(トルン・マリンバ)、菊田茂伸(ウッドベース)、岡山晃久(パーカッション)
全席自由3000円(Pコード:324-126)
チケット取り扱い:
電子チケットぴあ:0570-02-9999

主催:Oguri Kumiko Trio
共催:日本トルン協会
後援:ベトナム航空、ベトナム大使館、朝日新聞横浜総局、マリンバ北星会、neoria KOROGI、アジア文化社

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