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おばあちゃんの櫛を求めて、喜多製作所

2009年4月17日 0 コメント

素敵な使い心地の櫛。そんな櫛を求める声は、女性たちの間では、あたり前のようにある声でしょう。しかし、現在、巷にあふれるのは、そのほとんどがプラスチック製のもの。人工物だから悪いものだとは言わないまでも、もっと他にもあるはず!そう思う乙女たちは決して少なくないでしょう。そして、現代においては、男性諸子だって、良い櫛を使いたいものです。何故なら、それは、良い櫛は何となく頭皮にも良さそうですから…。つまり、ハゲ予防!そこで、ふと思い浮かべたのが、老いて尚、綺麗な髪の祖母が使っていたあの櫛です。「ツゲ櫛」。祖母の口をついて出てきたのは、たしかに、そんな単語でした。そんな覚束ない記憶を頼りに訪ねてのは、鹿児島県は薩摩半島の南端に位置する指宿にあるつげ櫛屋さん、喜多製作所です。

訪ねた人:喜多忠男
場所:喜多製作所
取材:鈴木 "スズ" 隆文

こんにちは。良い櫛を探そう、といろいろと調べてみたら、ここにたどり着きました。ツゲ櫛の魅力というものについて、教えていただけないでしょうか?

つげ櫛というのは、今はほとんど、伝統産品になってしまっていますね。でも、かつては、日本では最高級の櫛として知られていたものなんです。中でも、薩摩のツゲ櫛は江戸時代には、歌にまで歌われたものなんですよ。

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薩摩のツゲ櫛が有名なのは、どうしてなのでしょうか?

指宿あたりは、薩摩ツゲというツゲ材の産地として知れれているからです。ツゲの銘木と言えば、薩摩ツゲになるわけです。材質としては、気密性が高く、木が含んだ油が逃げにくい。弾力性もあります。だから、梳かすときに滑らかで、髪を痛めない。だから、江戸時代の女の人たちは、ツゲ櫛に憧れたんでしょうね。

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指宿という土地の気候がそうさせたわけですね。

薩摩のツゲ材というのは、中でも気密性が高くて、弾力性があるものなんです。指宿周辺というのは、ツゲの植生地としては比較的温度が低いんです。だから、成長が遅くて、一本一本の木の年輪の幅が狭い。そうすると、ギュッと気密性も高くなるわけですね。材質としての価値というのが輸入材とは、比べものにならない。パッと見て、表面の質感だけみても、全然違いますよ。

今でも高価なものですから、かつては庶民は手の届かないものだったのでしょうね。

かつては、きっとそうだったんでしょうね。それに、今でも、高級な櫛であることには変わらない。でも、実際、最近の女性たちは、美容院に行けば、1万円、2万円は、簡単に使ってきます。それを考えてみたら、ウチのツゲ櫛なんて一生使えますからね。大したことはないはずなんですけど(笑)。

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それにしても喜多さんは、美しい髪をしていますね。男の人にこういうことを言うのも何なんでしょうけど…。

ありがとうございます(笑)。でも、私は、これで髪をといているだけで、他には何にもしていませんよ。

この喜多製作所は、ツゲのブラシを発案して、特許も取っいる工場だということを聞きましたが、本当でしょうか?

はい。本当ですよ。あるとき、若い人たちの櫛の使い方が気になったんです。彼女たちは、握るようにして櫛を持って、かつての日本人女性のようには、櫛を持てないということを感じていたんです。それで、毎年売上げも下がってきていましたから、何か試しにつくってみよう、とこさえあげたのが、ツゲ材でつくったブラシだったわけですね。それを持っていくと、売れるんですよ。

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では、ツゲ・ブラシということになると、喜多製作所が、本家本元ということになるわけですね。

まあ、特許はウチで持っているんですけど、いかんせん、ブラシの歯の数が違えば他が真似していても文句は言えないらしく、何も得したことはないですけどね(笑)。でも、事実としては、私が、最初に発案したものだと思います。でも、このブラシのお陰で、この工場が盛り返しましたからね。

工場が危機的なときもあったんですか?

ありましたよ。ツゲ櫛のブームというのは、私がやってきた中で3回くらいは来たんですけど、その後が、どうにも給料払えなくなってしまって、それで従業員に辞めてもらったりもしました。私たちなんて、本当に田舎の零細企業ですからね。その辺りは、円満でした。「ウチは仕事なくなったよ。あっちの会社に仕事があるみたいだぞ」という感じです。単純なんですよ(笑)。

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ところで、喜多さんは、この家をどういった経緯から継ぐことになったのですか?

私は別に長男ではなかったから、この家を継ぐ必要もなかったんですよ。で、若い頃、私はフラフラしていたら、兄貴に呼び戻されて、家を手伝えというわけです。だから、当初は、自分が櫛屋になるつもりなんかなかったんです。でも、まあ、やっているうちにツゲ櫛ブームなんかも来たりして、面白くなっていったわけですね。そうこうしているうちに42年もの歳月が流れてしまいましたね(笑)。

長く携わられているベテランなわけですね。他の職業に憧れたりはしなかったんですか?

いやあ、それはないですね。私は、こう見えても意外に器用で、どんなことでも割と簡単にマスターしてしまうんです。だけど、生きてきた流れの中では、このツゲ櫛屋を任されて、商売をさせてもらってきた。だから、これが私の人生で、課せられた自分の任務なのかと思っています。頭がいいわけでも、学歴があるわけでもないですからね。与えられたもの、自分なりに全うする、そういう気持ちを大切にしていきたいと思っているんです。文化勲章もらえるような商売でもないし、財産ができるような仕事でもない。

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なるほど、財産はないわけですか。

私たちにとっての財産というのは、この薩摩ツゲの木材ですよ。「あそこのツゲ櫛屋は、ツゲ材、沢山あるみたいだ」なんて、同業者の噂話は、昔からそんな感じです(笑)。要するに、ツゲ材が財産。私の息子がもし、この工場を継ぐつもりでいるなら、ツゲ材だけはしっかり残してやりたい、そう思っていますよ。

もし、息子さんが継ぐことになった場合、どんなアドバイスをしたいとお考えですか?

無理に継がせる気は全然ないんだけどね。でも、やっぱり、自分でつくって、自分で売りに行くという形を取った方が、嘘がなくて、素直な形でモノ売りができるからいいと思うんです。説明していて、つまるところがない。通り一遍のマニュアルを読むんじゃなくて、自分が手を動かして、体で知っていることを説明して、売る。それが一番上手くいくんじゃないかなあ。私は、そう思っとりますよ。

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最後に、ひとつ、聞きづらいことなんですけど、この櫛は、男性が使ってもいいものなのでしょうか? あの、ほら、頭皮とか、大切って言うじゃないですか…。

そらあ、悪くはないですよ。私は、この櫛以外、髪に何にもしていないですからね。

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