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『セレブと板金工』:第3話

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建築家の目にとまる

彼の生み出したプロダクト・ブランド、エアロコンセプトは口コミでその名を世に知らしめることになった不思議な存在なのである。そもそもが彼は自分自身のためだけにしか、このプロダクトをつくっていない。最初、彼にこの製品の発注をした人物は、建築家だったという。ある日の彼は、自らの手でつくった鞄を持っていた。設計図を入れて持ち歩くために、単なる自己満足のためにつくった鞄だ。日頃磨いている技術の集大成として、まさに「設計図専用ケース」と呼ぶのが相応しい、万能性からはほど遠い鞄。しかし、強烈な威光を放つ鞄。最初にこの鞄に目を留めたのは、菅野と同じ打ち合わせに出ていた建築家だった。

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耳から耳へ

「“私にもつくってください”って言うもんだから、こさえてやったんだよ。そうしたら、また、それ見た人から連絡があってさ、それでまたこさえてやったんだよ。そうこうしているうちに、どんどんとそういうこと言ってくる奴が増えてね。本業の精密板金加工の仕事の合間を見ては、ちょっとずつちょっとずつこさえていってやったんだよね。そうしたら、今度はアンタがやっているような仕事の人、雑誌だとか新聞だとかの取材が何誌か来てさ。それで、またしばらく経ったら、ユナイテッド・アロウズだとかビームスだとか、当時はそんなお店の存在自体知らなかったんだけどね、三菱商事だ、フェンダーだ、トヨタだ、ポルシェだって、いろいろ言ってくれる人たちがどんどん現れてきたんだよね。」

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世界から浴びる注目

彼はそう言うと、嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべた。誤解を恐れずに言えば、単なる手工芸品、いや手工業品であったモノだ。それが、まるで藁しべ長者のように噂が噂を呼び、人が人を呼び、噂と人とが数珠つなぎとなって現在の状況を生み出している。現在の状況というのは、世界からの注目を浴びるメーカー、プロダクト・ブランドになっているということだ。『ニューズ・ウィーク』では、世界が注目する日本の中小企業100社にも選ばれた。外国人特派員クラブからの合同インタビューも受けた。ロンドンの有名アンティークショップ『ベントレイズ』からは販売エージェント契約を結びたいというラブコールを受けてもいる。等々、そんな話は枚挙しきれないほど、彼のところにはワールドワイドな、グローバルな話が舞い込んでくる。どうしてそんなことが、この小さな町工場に起こるのか。そう問えば、本人は、こう答えるだろう。

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「俺だってわかんないんだよ。」

ただ、端から眺めていると、ふたつの要因があぶり出されてくるように思う。ひとつは、そこに圧倒的な技術が込められていることだ。それは、エアロコンセプトの名前の由来にもなっている航空機の部品、新幹線の部品の製造技術である。そして、もうひとつ、それはもっと感覚的なところ、彼の感性とか美意識とかが映し出された部分。平たい言葉、彼の嫌がる言い方をするなら、「デザイン」だ。

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デザインではないデザイン

「俺たち職人はさ、いつもルーチンの下請けの仕事をやっていじめられてきたんだよ。だけど、それでも職人ていうのは、いいものつくれたら嬉しいからね。みんな一生懸命技術を磨くんだよな。ウチがやっているのは精密板金加工という分野のことだよ。普通の人は、わけわかんないだろ?航空機とか新幹線のシートの構造体に使うパーツをつくっているんだよ。一般の人には見えないところをつくっているんだ。だから、俺はデザインなんてのはできないだよ。よく人は、”菅野さんはデザインもやるんですか?”なんて訳わかんないこと聞いてくるんだけどね。”デザインなんかじゃねぇんだ。デザインなんて、俺はできないだ”っていつも説明するんだよね」

では、「デザインはできない」と断じる菅野が身を置くものづくりの現場、それは一体、どのようなところなのだろうか? 実際には、デザインをしているようにしか見えない、そんな彼が、生業としてきた精密板金加工とは一体、どんなものなのだろうか? デザイン性を少しでも内包したものなのかどうか、筆者は精密板金加工についてを調べてみることにした。

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