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物語を酒と人で紡ぐ男、亀岡酒造

2009年3月19日 0 コメント

愛媛県内子町五十崎、とある取材の空き時間、ふと不思議な噂を耳にしました。 「この土地には不思議な仙人のような人がいるんです。あの人、口では何も言わずとも、人を動かす不思議な力がある人なんですよ。いやぁ、不思議だ、不思議だ」。 一体、何のことだろう? 甘いお金のささやきでも、鉄拳制裁でも、飴と鞭でもないというのなら、どうして人が人を動かすことなどできるのだろう?そんな不埒千万を思うのは、筆者だけなのでありましょうか。しかし、この地域の人たちは、その話に首頷するばかり。 「わかる、わかる。あの人には黒魔術的な何かがあるよ」。 な、なんと、黒魔術。 そ、そんなマジカルな方ならば、是非ともお会いしてみたい。 こうして、お会いすることになった人物は、亀岡酒造の会長を務める人物、亀岡徹さんでした。

訪ねた人:亀岡徹
場所:亀岡酒造
取材:鈴木隆文

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こんにちは。急にお時間をいただくことになってしまい本当に恐縮です。酒蔵を営まれているということでお伺いしていて、ちょっとそのお酒造りについて聞いてみたいと思って、お時間を取らせていただきました。

いやあ。僕は今は社長でなくて会長だから、酒蔵は営んでいないですよ。もっぱら実験をして、次のファイトに備えているという。まあ、研究開発ですかね、ひと言で言えば。

お酒の新商品開発ですね! お酒ってどうやってつくられるのか、興味があったんですよね。

まあ、僕の場合は、先に名前を付けるんですね。先に名前を付けて、そこから味を考えていく。名前から物語をこしらえて、そうして味を研究開発していくというのが正しいかもしれないですね。で、研究開発も大体こんなところか、というところで蔵に渡して本仕込みに入るわけです。

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何となくわかるような、わからないようなお酒造りをされているのですね。

今は、お酒造りを本当にする人にとっては、面白い時代になってきましたね。女性がお酒を飲むということをしはじめましたからね。物語をこよなく愛する女性がお酒をたしなむというのは、これはオモシロいですよ。女性は味覚も敏感ですけど、やっぱり味なんていうのは錯覚ですからね。ホッホッホ。

えっ、味が錯覚? 女性が物語を愛するというのはわかる気がするんですけど、味が錯覚というのは、どういうことなのでしょうか?

たとえばですよ。「花は美しい」という概念がある。それは、人間の脳の中に、「花は美しいはずだ」という前提があるんですね。美しいというのは、花の中にあるのではなくて、人間の脳みその中に存在するんですよ。どうですか? そう思いませんか?

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いやあ、ちょっと、難しいですね。

花というのは、ただの花でしかない。人間がいなかったら、美しくも醜くもないんです。花に美醜という色づけをするのは、人間なんですよ。だから、お酒の味も一緒というわけです。だから僕は、人間の脳に、「美味しい」と感じてもらえるような物語をつくっている、そういう側面がなきにしもあらず。

なるほど、少しだけ飲み込めてきました。具体例って、何かあげられますか?

単純なことですよ。例えば、森まゆみさんというノンフィクション・ライターの人がいて、あるとき森鴎外の評伝『鴎外の坂』を上梓した。それで、その本の出版を記念して、お酒を造ることになったわけです。そういうときに思い浮かべたのは、「100年酵母」を使おうという発想です。それは、森鴎外の本だから。彼は、明治時代の作家。今からおよそ、100年昔の作家でしょ?

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ああ、確かに。そうすると、100年前の酵母が使われているお酒を飲みながら、その本を読んだりもできてロマンチックですもんね。でも、やっぱりちゃんとした技術を使うわけですか?

それはもちろんそうですよ。高い品質を生む技術の上に味を彩る物語がなかったなら、架空のものになってしまう。裏付け、というものが大切なんでしょうな。

なるほど。でも元々、亀岡さんは、働き者だし、そういう頭脳が備わっているんでしょうね。

ホッホッホ。私は、働き者じゃないですよ。ただ、遊んでいるだけ。研究開発と言ったって、ただ手を動かして遊んでいるの。別に頭も使ってない。みんな、頭で考えようとするんだよね。本当は、手を動かしていたら、勝手に手が発見して、手が考えてくれるもんなんだけどね。楽なもんですよ。その上、酒の麹っていうのは、働き者ですからね。タンクの中に入れておいたら、勝手に働いてくれる。こんなに楽なものはないですよ。ホッホッホッホ。

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な、何か得も言われぬ深さがあります…。この五十崎に住んでいる皆さんが、亀岡さんには何か操られている気がすると、言っていた意味がわかってきました。

私は、何も誰も操っていないですよ。ただ、日本人の多くの人は、確認作業が足らんから、同じ言葉を話していても通じていないんですよ。誰かが怒って座を立つような人がいたら、”おい、ちょっと、ここに酒があるゾ。まあ、ちょっと、一杯だけ飲んでいきぃ。花札もあるゾ”。そういう確認作業が足りない。曖昧になりがちなコミュニケーションを曖昧なままにしないで、確認をするということでしょうかね。

ところで、亀岡さんは、町づくりの世話人なんかもやっていると聞いています。

美しい小田川を守る活動なんかもやってきましたね。あのときは面白かった。県なんかは効率重視でね、自然を壊してコンクリート使った護岸工事をやろうとするでしょ。それじゃあ良くない、っていうので、僕が県庁に出向いたら、けんもほろろで取りつく島もなくてね。ならば次の手と、今度は、霞ヶ関に通ったんですね。新幹線に乗っては戻って、乗っては戻って、毎週した。そうしたら、建設省の河川を担当する人が会ってくれてね、”これウチでつくった大根とお酒です”って、具合でやってたら仲良しになっちゃった。”亀ちゃん、五十崎の小田川というところを、実際にこの目で見ましょう”って、出向いてくれた。そうしたら県の職員は大慌てですよ。ガラッと態度を変えて、レッドカーペットを出さんばかりの勢いで出迎えるんですからね。ホッホッホッ。

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護岸工事というのは不思議なものですものね。めったに起こらない災害のために、景観を壊すという。それで、どうなったんですか?

結局ね。スイスにあった「近自然工法」(自然の景観に配慮した工法)を日本ではじめて導入させることになりましたね。その2年後からは、建設省が「多自然工法」と呼んで、日本全国の各自治体に導入が通達されることになったんですよ。まあ、僕みたいにチェ・ゲバラに憧れて、感染してしまう男っていうのは、そういうことができると、嬉しいものでしてね。感染するっていうのは、あれば一種の才能なんでしょうかね。

と、といいますか、凄いことですよね。日本の河川事業を一変させたみたいなもんじゃないですか! そ、その黒魔術の秘訣って、どんなことなんでしょう?

一つ、人は信用せず愛すること。一つ、多数決は存在しない。おのれ一人の力で登ること。一つ、言葉でもって人が説得出来るなどという妄想を抱いてはならぬ。一つ、いのち、金、地位、名誉は舞台の上の小道具にて演ずる劇がなければ元々必要なきものなり。

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