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『セレブと板金工』:第1話

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はじめに

「驚くべきエネルギーに溢れた人がいるんですよ。ちょっと、尋常じゃないです、その人は」。

そんな言葉を耳にしたのは、取材先のEXIT METAL WORKS SUPLYの清水薫氏からだった。
清水氏は、職人でもありデザイナーでもある。
溶接や鍛造などの実製作を行うのは当たり前で、
鉄という材質を最大限に活用した鉄製プロダクトの企画やデザインを取り仕切る。
いわばスタイリッシュな鉄工デザイン事務所のドンだ。

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その頃、僕は「ものづくりをする人の人生づくり」というテーマで取材を重ねていた。
現在、廃刊となってしまった『PingMagMAKE』(日英二ヶ国語)、
そして『PingMagRISA』(Risa Partnersのオンライン広報マガジン)
というウェブマガジンのための取材である。

僕はその激しい取材スケジュールを通じて、
かつてないほどの取材数をたった1年半ばかりの間に体験していた。
その取材者数は約120人にも上る。
加えて、約10年に及ぶライターとエディターとしての仕事を通じて、
さまざまなユニークな人々と膝を交えてきたという自負心もあった。
だから、町工場にいる“尋常じゃない”というその人物も、
きっと自分の想像の内側にいるユニークな人なのだろうと、高を括っていた。

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「でも、清水さんみたいな面白い人が”面白い”というなら、きっと本当に面白い人なんでしょうね。取材用のネタにストックしておきます。どんな方なんでしょう?」。

「菅野さんっていう人です。渓水という会社をやっていて、エアロコンセプトというプロダクをデザインしている、すげぇオヤジなんですよ。」。

「エアロコンセプト?」

僕は、そんな名のプロダクト・ブランドは耳にしたことがなかった。
だから、その名前を聞いたとき、「ふーん」としか思わなかった。
「エアロ」+「コンセプト」という名前も、
ただ単に語呂がいいから付けられただけのブランド名なのだろうと思っていた。

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「普段は、新幹線とか航空機のパーツをつくっている町工場のオヤジなのに、
ユマ・サーマンが彼のつくったモノを持っていたり、
(ギターメーカーの)フェンダーのためにギターケースをつくったり、
ポルシェ・ジャパンの社長の大のお気に入りだったり、
彼の口から出る言葉は、もう町工場レベルの話じゃないんですよ、グローバルなんです(笑)。
彼は製造業者の夢なんだ。かっこいいんですよ」。

製造業という重苦しいイメージを背負った分野において、
道なき道を切り拓き、
他人には真似のできない、
製造とデザインをひとつにするということをやり遂げてきた清水薫という人物が、
憧憬の念さえ抱いている。
僕はまだ半信半疑ながら、少なからず菅野という人物への興味が高まっていた。

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その後、会社に戻った僕は、彼の会社のホームページを見てみることにした。
すると、そこに出てきたのはいくつかにカテゴリー分けされたタグだった。
その中で一番気になったのは「PRODUCT」という欄。
僕はこれをクリックして、さらに奥の階層へと進んだ。
と、今度現れたのは不思議なカテゴリーブロックが並ぶページだった。

「AIR CRAFT」「SHINKANSEN」「AERO CONCEPT」「OTHER」、

表示されたのはその4つのカテゴリー。

「AIR CRAFT」「SHINKANSEN」をクリックすると、
ズラリと出てくるのは、「まさに町工場!という風情の製品群。

ところが、
「AERO CONCEPT」「OTHER」というカテゴリーをクリックすると、
一変、このサイトはアナザーワールドの雰囲気を漂わせるのだ。
男心を妙にくすぐる部材が剥き出しのアタッシュケース、
名刺ホルダー、照明など、
日用使いが可能なプロダクトの数々が美しいグラビア写真のようにあらわれる。

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きっと、見る人はそこではじめて気がつくのだろう。

「ああ、そうか。
航空機や新幹線の部品の余り物を使って、
こういうものもつくっているんだ。でも、なんで?」。

僕は、「この渓水という会社、そしてこの菅野敬一という人物は、
もしかしたら僕が取り組んでいるテーマに合う人かもしれないなぁ」、
そんなことをぼんやり思っていた。
そして、即座に彼を取材をすることを決めていた。

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それから約2か月が経った後、
僕は菅野敬一を取材し、その内容を前出のウェブマガジンの記事として掲載した。
掲載後、国内外から大きな反響があり、彼の言葉への賛辞が相次いだ。

“Wow, a truly amazing man. The metal+leather briefcases are beautiful. I want one.”
「何て素晴らしい人物なんだろう。私も、美しい金属と革のブリーフケースを手に入れたいな」

“This is what craftmanship is. Gave me a new perspective to Japanese technology.”
「これこそが職人魂だよ。日本の技術に新しい視座を見せてくれているね。」

“What an insightful interview. Thank you so much. Power to the craftspeople!”
「何て洞察にあふれたインタビューなんだろう。どうもありがとう。職人さんたちに力を!」

“Keiichi Sugano truly shows in his beautifully crafted work.”
「この菅野敬一という人は、手作りの作品を本当に美しく見せてくれているわ。」
など、世界中の多くの人が彼の言葉に感動したようだった。

そして、何よりも僕自身が彼の言葉に感動していた。
言葉で人を感動させるのは、容易なことではない。
それは、言葉を生業にしてきたひとりのライターとして、つくづく感じさせられることだ。

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特にひとりよがりな説教じみた内容の話は、
正直なところあまり耳を貸す気になれない。
きっと、それは万人の思うところだろう。
しかし、彼の言葉は違った。
時折、社会への怒りが説教のように繰り出されながらも、
物事の本質をついているせいか、それを人に強制をしない語り口のせいか、
不思議なほどすんなりと心に沁み込んでいくのだ。

そして、彼の話を聞いていると不思議な感覚が沸き上がってくる。
それは、自分自身が古き良き時代にトリップしてしまうという感覚だ。
それが60年代なのか70年代なのか、
それとも、それよりもずっと昔の明治時代なのか大正時代なのかは、わからない。
ただ、ひとつ言えるのは、それが耳にしていて心地よく懐かしい刺激に満ちているということである。

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だからこそ、ウェブマガジンの読者たちは、
編集部に多くのメッセージを寄せてきてくれたのだろう。
取材が終わって、僕は菅野にこう尋ねたのを覚えている。

「菅野さんは、講演なんかはしないんですか?」

すると、菅野は、無邪気な子供のように顔をくしゃくしゃにして、

「何で、俺が?俺はただの職人だよ」、そう返してきた。

「製造業、ものづくりの復権こそが国を救う!」、
そんなことが叫ばれてから、もう随分と時間が流れている。

しかし、どういうわけか、現在もものづくりが復権している様子は見受けられない。
かつて日本の製造業は、
松下幸之助、本田宗一郎、井深大、稲盛和夫など蒼々たる人材を輩出してきた。
いづれの御大も世界が認める偉人である。

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今なお、書店に行けば彼らの普遍性を備えた言葉が刷られた書物を見つけることは難しくない。
しかし現代の日本人を見るとどうだろう? 
彼らに比肩するような製造業のヒーローに出会うことはできない。
もちろん、その最大の要因は、時代の流れだ。
既にさまざまなモノがほとんどの人たちに広く行き渡っている現代においては、
家電メーカーや自動車メーカーを起ち上げても、
既存の大手ブランドに太刀打ちできようはずもない。
国民の生活を根底から一変させてしまうような革命的な製造業者を見つけることなどは、
もはやできるものではない。
だから、最初からそんな次元の話を持ち出すこと自体がナンセンスなのだ、
そう諭されてしまっても仕方がないことだ。

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しかし、本当にそうなのだろうか。
そんなに大上段に構えることをしなければ、
きっと今だって賢いものづくりをしている人はいる。
なぜなら、僕らの生活にはモノは必要不可欠だし、いいモノに囲まれていたい、
という欲求は誰しも多かれ少なかれ持っていて、
その食指は、街中やサイバースペースで、いつだって伸ばされているのだから。

だから今の日本が立たされている立場から、
ものづくりに新しい光を投ずる人がいないわけはないのである。
ユニークな視点を持つことでモノに付加された価値を与えるものづくりを行う人々。
中国の故事に「千里の馬は常にあれども伯楽は常に有らず」とあるではないか。

ここ2年間ほど僕は、そんな想いで日本全国と飛び回り、人々に会い、言葉を交わしてきたつもりだった。
そしてその結果、実際に多くの人がユニークなものづくりをしている姿を目の当たりにすることができたのだった。

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しかし、
そんな偉人たちの中でも、菅野敬一はひと際異彩を放っていた。
どう見積もっても普通じゃない。
たった十数人の工員の町工場のドンでしかない彼が、どうしてこれだけの世界観を出現させられるのだろうか。
マーケティングなど一切行わないものづくりで、人々の共感を得ることができるのだろうか。
何かが時代の最先端を走っていなければ、どう考えてもおかしいのだ。
言葉は悪いが一般的に見たら、菅野敬一は一介の小市民であり、一介の町工場のオヤジでしかない。
その彼が今や世界から熱い視線を注がれている。
超有名ブランドメーカーも、スクリーンに端正な微笑みを浮かべるハリウッドセレブも、
有名セレクトショップのバイヤーも、
多くの人が彼のつくったプロダクト・ブランド「エアロコンセプト」のファンである。
これは、紛れもない事実だ。
まるで、おとぎ話のような話である。
小さな町工場がつくったモノが、世界中の人々に語り掛け、彼らの心を揺らしているのである。

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「では、一体どうやって?」

誰もが知りたいだろうその秘密を、
僕は本にできないかと考えていた。
一度の取材で彼と彼の掲げるブランドについてのあらましは知っていた。
しかし、それは菅野敬一という巨大な森の俯瞰図でしかない。
金銀財宝を手にするには、鬱蒼と茂る原生林のジャングルへと入っていかなければならない。

「エアロコンセプトという、
国境の壁さえも取り払ってしまう魔力を持ったプロダクトを生みだした
町工場のオヤジの成功譚」。

簡単に言ってしまえば、僕が書きたいのは、そんな読み物なのかもしれない。
でも、もっと厳密に言うなら、そうではない。
本当のところは、

「彼の言葉と言葉の行間に漂う何かを多くの人に伝えることはできないだろうか」、

そう真摯に思ったから、僕は彼に話を持ちかけたのだ。

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「何、本つくりたいの? 俺が最先端? 何言ってんだよ。
俺は、昔かたぎの職人だよ。
それに、俺、成功物語とか嫌いなんだよ。
どうせゴーストライターが書いているんだろ?
ああいうの。
そんな本、俺、読まないもの。でもさ、今の時代、ちょっと変だろ。
こんな世の中おかしいよ。
だから、もしかしたら俺みたいな、ただの町工場のオヤジの話がさ、
今はみんなにとって価値のある話なのかもしんないよな」。

そんなことを言うと、彼はどうしてか僕の提案に応じてくれる気になったようだった。
世間では、派遣村なる不可思議な簡易ヴィレッジまで登場した。
平和ボケ、贅沢ボケした僕ら現代人は、
今はじめてリアルな感触を持った恐怖を味わわされている。
書店では、かの小林多喜二の『蟹工船』が再び脚光を浴び平積みがされていた。

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かつてあった厳しい労働環境の描かれた物語に自分の置かれた立場を照らして、
シンパシーを感じているわけだ。
しかし、こんな時代だからこそ、
僕らは夢を見たいと思っている、
それも地に足のついたリアルな夢を。
僕らは聞きたいと思っている、
僕らと同じ地平に立ち、リアルに存在する町工場のオヤジの話を。

これは、あくまでもひとりの男の体験であり、
ひとりの男の考えに過ぎない。
それでも、彼の言葉は平易ながらも哲学に満ちている。
そして、スーッと耳に入り心に馴染みやすいという魔力を備えている。
そして、彼のような人物こそが、僕らの時代のヒーローになりうるはずなのだ。
彼は、その言葉と行動で、労働の美と力を示してくれた。
本質的であることを意識し、労働に心を流せば、夢は開花するんだよ、と。

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これは21世紀のプロレタリアート文学かもしれない。
新しいマーケティング方法を示すビジネス書かもしれない。
はたまた、「ダメな私、ダメな僕」を叱咤激励する自己啓発書かもしれない。
あるいは、
その全てをここから得る人もいるだろうし、何も得ない人だっているだろう。
その印象は、当然、読む人によって異なる。

「驚くべきエネルギーに溢れた人がいるんですよ。ちょっと、尋常じゃないです、その人は」(EXIT METAK WORKS・清水 薫氏)。

ただひとつ、本書の書き手として約束できること、
それは彼の言葉に、
彼の生みだしたブランド同様、驚くべきエネルギーが流れていることだ。
大袈裟なことは言わずとも、どん底から這い上がって夢を実現した職人の話は、
多くの人に夢と希望を与える。

僕はそう信じて、この話を書くことにした。

1 コメント

  1. leonardo de luca より:

    Ciao kei, siamo contenti di vedere sempre delle novita`
    ti auguriamo un grande successo e felicita`sperando di contribuire un giorno anche con il nostro impegno…
    un abbraccio e saluti
    leonardo e isabella

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